ブナ(ブナ科ブナ属 落葉広葉/高木)橅

 

日本海側の多雪地の肥沃な山地帯に純林(極相林)をつくる。積雪が種子を乾燥・凍結、動物の被食から守り、豊富な給水を助ける。

新緑、夏緑、黄葉どれも美しい。樹皮は滑らかな灰白色だがしばしば地衣類が付いてまだらになる。

 

葉の縁が波状で、波のくぼみに711対の支脈が届く独特の葉。ソバの実に似たドングリは栄養価も高く動物たちの好物。 

和名「は材が腐りやすく材木として使い物にならないことから。

 

山地帯(海抜1600m以下)の樹木

 



ブナ(2)ー実と葉ー

 

 

 

ブナの実は苦味がなく、ほのかな甘みがあります。熊にとってブナの実は冬眠前に欠かせない貴重な食糧です。

 

葉は分解しにくいため土壌に厚く堆積しますが、それがかえって森の保水性を高め、ブナ林は緑のダムと例えられています。

 

 


ミズナラ(ブナ科コナラ属 落葉広葉/高木)水楢

 

冷温帯を代表する落葉広葉樹。カシワに似た大きな葉を茂らせ、若葉、新緑がみずみずしい。ブナと並んで肥沃地でよく見られる。

 

ミズナラは陽樹で倒木や山火事等の跡地に真っ先に定着する。乾燥にも強く萌芽更新し、樹齢も長い。ライバルのブナと土地条件に応じて住み分ける。

 

樹皮は灰褐色で縦に浅く裂け、表皮が薄い紙状にはがれるのが特徴。高さ2~3㎝の大きなドングリは動物たちの好物。和名「水楢」は幹や枝に含まれる水分が多いことから。

 

明治から昭和初めには高級家具材、ウイスキー樽材、薪炭として利用された。

 

山地帯(海抜1600m以下)の樹木

 

 

 

 

 

ミズナラの葉とドングリ


シナノキ(アオイ科シナノキ属 落葉広葉/高木) 科の木

 

 

北海道をはじめ全国の山地帯に広く分布。長野県にも多くあったことから「信濃」の語源となった。菩提樹の仲間。

 

花の柄にへら状の葉(苞葉)がつき、実は苞葉の下にぶら下がりプロペラのように回って空中に漂い種を広げる。花は香りが良く良質の蜂蜜が取れる。樹皮は灰褐色で縦に裂ける。葉は直径58㎝のハート形。

 

アイヌ語で「シナ」は「結ぶ・くくる」の意で、強靭な樹皮の繊維から縄や布を作った。材は緻密かつ軽量均質でベニアに使われる。

 

山地帯(海抜1600m以下)の樹木。

 

 

 

シナノキの葉と実


シラカバ(カバノキ科カバノキ属  落葉広葉/高木) 白樺

 

光沢のある白い樹皮と緑の若葉のコントラスト、そして秋の黄葉が美しい白樺は山地帯の高原を代表する木。

 

陽の当たる明るい場所を好む陽樹で、草原や伐採地などに侵入して育成する。樹皮は白色で横向きの黒い線状の皮目がある。幹の「へ」の字の黒い枝跡、小枝の色が黒いが特徴。葉は二等辺三角形で支脈は5~8対。

 

和名「白樺」は白い幹の樺の木から。

 

正式名称はシラカンバ

 

山地帯(海抜1600m以下)の樹木。

 

               シラカンバの葉(表

          シラカンバの葉(裏)



ダケカンバ(カバノキ科カバノキ属  落葉広葉/高木)岳樺

 

 

 

山地帯上部から亜高山帯、森林限界にかけて自生する。山地帯上部ではシラカバと混生する。秋、針葉樹林の中で浮かび上がる黄葉が美しい。冬、うす肌色の樹形が暗い緑の中に浮かび上がる様子も幽玄。

 

陽樹のシラカバに似て森林の倒木跡地など明るい場所にいち早く侵入し素早く成長する。寒さにも強く、雪圧や雪崩にも耐えるしなやかな幹や枝を持ち、極寒と強風の森林限界を超えて高山帯まで樹形を変形させながら育成する。

 

樹皮は淡い橙色で、表皮は紙状に横に剥がれ、老木ほど激しく剥がれる。小枝も幹と同色。葉はハート形で支脈は7対以上11対前後。和名「岳樺」は標高の高い山岳に生える樺の木の意から。

    千畳敷(中央アルプス)のダケカンバ

           ダケカンバの葉



シラビソ(マツ科モミ属  常緑針葉/高木)白檜曽

 

 

 

寒さに強く耐陰性を待つ針葉樹のシラビソは亜高山帯に同一集団の森(極相林)をつくる。

 

林床には幼樹が何十年も待機していて、樹齢の短い親木が倒れると一斉に大規模に更新する。風当たりの強い斜面でシラビソ林が縞状に枯れ登っていく「縞枯れ現象」も大規模更新の形だ。

 

樹皮は灰白色で平滑、横長のヤニ袋がある。地衣類が付いていることも多い。葉は先が窪んだ長さ12.5㎝の平線形で枝に左右に密生する。上から枝がはっきり見える。

 

和名「白檜曽」はヒノキの代用とされ、樹皮が白みを帯びていることからとの説もある。

 

亜高山帯(海抜1600m以上)の樹木。

 

 

シラビソの葉


オオシラビソ(マツ科モミ属 常緑針葉/高木) 大白檜曽

 

 

寒さにも雪圧にも強いオオシラビソは東北地方の亜高山帯で多く見られる。雪が氷結して樹氷となる木。志賀高原ではシラビソと混生する。

 

樹皮は紫色を帯びた灰白色で平滑、横長のヤニ袋がある。地衣類が付いていることも多い。葉は先が窪んだ長さ12㎝の平線形の葉が枝に密生し枝が隠れて見えない。

 

和名「大白檜曽」はシラビソより大きな松ぼっくりを作る(長さ56㎝に対して10㎝)ことから。別名アオモリトドマツ

 

亜高山帯(海抜1600m以上)の樹木

        オオシラビソの葉

         オオシラビソの松ぼっくり



コメツガ(マツ科ツガ属 落葉広葉/高木)米栂

 

 

亜高山帯の岩場や溶岩台地など土壌が薄く乾燥しやすいところに自生する。悪条件に耐えられるコメツガにとって、競争相手が少なく、発根障害となる落ち葉も少なく、土壌中の病原菌・害虫の少ない岩場はむしろ育成しやすい場所なのかもしれない。

 

シラビソやオオシラビソと混生する。樹皮は茶褐色で、竪に荒く網目状に裂ける。葉は先が窪んだ長さ1㎝の平線形の黄緑色の葉が枝に不揃いにつく。

 

和名「米栂」は小さな葉を米にたとえたもの。コメツガは山地帯のツガが高標地に対応した種。コメツガはツガに比して松ぼっくりが2㎝と小さく、あまり下向きに垂れ下がらない。若枝に微毛がある。

 

亜高山帯(海抜1600m以上)の樹木。

 

 

コメツガの葉と松ぼっくり


クロベ(ヒノキ科クロベ属 常緑広葉/高木)黒檜

 

 

中部地方の亜高山帯の尾根筋などにコメツガなどと混生する。沼や湿地帯のもまわりでも育成する。

 

葉はヒノキの鱗片葉よりも一回り大きく、アスナロより小さい。裏面の気孔帯は緑白色で目立たない。樹皮は赤褐色で縦に裂ける。下部はさらに薄く裂けて赤剥ける。

 

江戸時代にはヒノキサワラアスナロコウヤマキと共に木曽五木として幕府によって厳重に保護された。和名「黒檜」はヒノキに比べて葉裏が暗いことから。別名ネズコ。

 

材は柔らかく通直で耐久性に富み、和風建築の内装材(障子、腰板、長押)に使われた。

 

亜高山帯(海抜1600m以上)の樹木

          クロベの葉(表)

       クロベの葉(裏)



ハイマツ(マツ科マツ属 常緑針葉/低木)這松

 

森林限界より高山帯にかけて育成する五葉性の松。

 

強風、極寒、積雪圧、貧土壌の悪条件下、岩塊地に枝を分岐させて背を低くして雪の中に埋もれ、地面に接した枝から根を出して広げ(伏状更新)、種子は飛ばさずホシガラスに松ぼっくりを食べてもらい岩と岩の隙間のわずかな土壌に散布してもらう戦略をとりながら悪条件を克服して高山帯で群生する。

 

陽光を独占するハイマツは森林内の倒木跡地では自生できない。なぜか亜高山帯の志賀山の鞍部でハイマツが見られる。

 

葉は5本の針葉状で、森林限界にも進出するゴヨウマツと変わらないが、松ぼっくりは熟しても開かない。大きめの種子には翼がなく、松ヤニ臭さがなく美味しい。

 

 

 

 

ハイマツの葉と松ぼっくり


オオカメノキ(ガマズミ科ガマズミ属 落葉広葉/小高木)大亀木

 

山地帯~亜高山帯の針葉樹・広葉樹の樹林下で自生。夏、大きな円い葉の間から8㎜ほどの楕円形の赤い実をたわわに突き出しているのに目が止まる。

 

実は秋に黒く熟し、実の柄の赤色と対比的に目立ち鳥を呼ぶ(二色効果)。葉は長さ8~20㎝の円形で多数の深い支脈の皺があり、葉の根本は心形にすぼまる。

 

和名「大亀木」は亀の甲羅に似た大きな葉から。葉は虫に食べられることが多く「ムシカリ(虫食われ)」との別名。

 

 

この木の特徴と名を「大亀が虫に食われて尻すぼむ」と覚えた。


エゾアジサイ(アジサイ科アジサイ属 落葉広葉/低木)蝦夷紫陽花

 

 

北海道から中部日本以北の日本海側の山地帯の谷沿いや林床に自生。

 

夏、薄暗い林内でうすクリーム色の両性花の周りで透き通るような青で浮かび上がる装飾花は格別。葉はつやがなく、20㎝近い楕円形で大きい。ヤマアジサイが多雪地域に対応した変種。

 

ヤマアジサイの葉は1015センチと小さく、ガクアジサイの葉は強い光沢がある。両者とも装飾花の色が白色~淡青色~淡紫色~淡紅色と変異が大きいことで、本種と識別できる。


ノリウツギ(アジサイ科アジサイ属 落葉広葉/低木~小高木)糊空木

 

 

山地帯の林縁など比較的陽当たりの良いところに自生。夏、枝先から円錐状のガクアジサイのような装飾花を持った白い花が目立つ。アジサイの仲間だが、唯一4m程の小高木となる。

 

対生の715㎝の長楕円形の葉をちぎると導管部で糸を引く。樹皮を水に浸してぬめりのある粘液を取り、和紙をすくときの糊剤とした。

 

均質で堅い材は木釘、かんじきの爪などに利用した。和名「糊空木」は糊が取れ初夏にウツギのような白い花を咲かせることから。空木は幹が中空の木のこと。科や属の異なる種でも幹が中空な植物をウツギと命名しているものがある。


タニウツギ(スイカズラ科タニウツギ属 落葉広葉/ 低木~小高木)谷空木

 

 

北海道から中部日本以北の日本海側の山地帯の谷沿いや林縁や陽当たりの良い場所に自生。

 

6月頃鮮やかなピンク色で咲き続けるロート状の花が美しい。

 

対生の410㎝の楕円形の葉の裏は白っぽく微毛が密生するのが特徴。

 

太平洋側の山地帯に多いニシキウツギ(二色空木)やハコネウツギ(箱根空木)は花が白から紅色に変わること、葉裏が無毛であることで、本種と識別できる。


ヤマウルシ

 

 

房のように垂れ下がっているのが果実。ロウソクの原料が採れます。

 

樹液に触れるとかぶれますが、塗料としても使われます。漆器に使う塗料は大部分が「ウルシ」の木からで中国産が90%以上、国産はごくわずか。

 

葉軸は赤く目立ち、紅葉はひときわ鮮やかに色づきます。


森の循環(ツリガネタケ)

 

 

 

ブナの幹にツリガネタケとコケ類が付着しています。

 

この幹はまもなく自らを支える力を失い土に還ります。

 

朽ちた幹が土中の小動物や菌類で分解され、多種の無機物に変わり、再び草木の栄養素として吸収されます。森の時間がゆっくりと流れています。


森のゆりかご

 

 

倒れた樹木にはコケ類がびっしりと生え、横たわっています。苔の保水性、倒木からの栄養、土中の菌類から逃れ、森の木洩れ日をいっぱいに浴びて、幼木はのびのびと育っていきます。倒木は「森のゆりかご」です。


森の住み家と共存

 

 

朽ちたブナに穴がたくさんありました。クマゲラの住み家?それとも野鳥が幹の中の昆虫を探し出した跡?

 

 

 

ブナは鳥類・哺乳類等に食糧を提供し、住み家も与えます。その代りに実の散布で助けられているのでしょうか。